借り上げ社宅制度を運用するうえで、社員から徴収する社宅家賃をどう設定したらよいか?というご相談を多くいただきます。
借り上げ社宅制度とは、市中にある賃貸物件を企業が借り上げ、社員に貸与する制度です。
実際の賃料は企業が家主に支払い、企業は社員から社宅使用の対価として「社宅家賃」を徴収することになります。
借り上げ社宅制度を運用するにあたって必ず決めなければならないものの一つに「社宅家賃」が挙げられます。
「社宅家賃」という呼称は企業ごとに異なり、「社宅料」・「社宅賃料」・「使用料」・「社宅使用料」など様々です(以降、呼称は「社宅家賃」とします)。
社宅家賃をどのように算出したらよいのか? 社宅家賃を決定するうえで注意しなければならないことは? など社宅家賃について順に書いていきたいと思います。
1.注意すべきポイント「 賃貸料相当額 」とは
社宅家賃に関して、最も多くご相談を受けるのは「社員から社宅家賃をどの程度徴収すればよいのか?」というご相談です。
社宅を貸与する社員の属性により徴収する社宅家賃を変更される企業が多いため、バラつきはありますが、一般的に実賃料額の20%~35%程度の社宅家賃を徴収される企業が多いです。
借り上げ社宅制度は企業ごとに制度の目的も、制度の内容も異なりますので、社宅家賃の設定も様々ですが、どの企業であっても社宅家賃を決定するうえで意識しておかなければならないポイントが一つあります。
それは、課税処理の有無です。
所得税基本通達に記載されている、社員に対して社宅や寮を貸与した時の課税・非課税を判定する基準を意識したうえで、社宅家賃を決めなければなりません。
国税庁HPのタックスアンサーには下記のように明記されています。
”使用人に対して社宅や寮などを貸与する場合には、使用人から1ヶ月あたり一定額の家賃(「賃貸料相当額」)以上を受け取っていれば給与として課税されません。”
使用人に無償で貸与する場合には、この賃貸料相当額が給与として課税されます。
使用人から賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている場合には、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額が、給与として課税されます。
しかし、使用人から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の50%以上であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は、給与として課税されません。
2.社宅家賃に関する課税・非課税の判断基準
国税庁HPのタックスアンサーで記載されている内容は、簡単に言うと、「賃貸料相当額を基準に課税・非課税を判断しますよ」というものです。
この課税・非課税の判断基準は、賃貸料相当額の50%以上を社宅家賃として徴収しているかどうかです。
- 使用人に無償で貸与する場合 ⇒賃貸料相当額が給与として課税
- 賃貸料相当額より低い社宅家賃を徴収している場合 ⇒差額を給与として課税
- 賃貸料相当額の50%以上を社宅家賃として徴収している場合 ⇒差額を給与として課税しなくてよい
具体的な金額を設定して説明してみます。
[参考例:賃貸料相当額が1万円の社宅を社員に貸与している場合]
(1)社宅を無償で提供する場合 → 1万円を給与として課税
(2)3千円を社宅家賃として徴収する場合 → 差額7千円を給与として課税
(3)5千円を社宅家賃として徴収する場合 → 差額5千円は給与として課税されない
「使用人から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の50%以上であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は、給与として課税されません。」という記載があります。
この点を誤解釈されている方が非常に多いので注意が必要です。
賃料の50%ではなく、「賃貸料相当額の50%」です。
企業が借りて家主に支払う家賃の50%ではありませんのでご注意ください。
また、課税処理の有無の判定は、プール計算が認められており、全体の合計額で判定することができます(社宅100件であれば100件の賃貸料相当額の合計額で判定が可能)。
賃貸料相当額の50%以上を社宅家賃として徴収していれば、社宅家賃に対して課税処理を行う必要はなくなります。
あまりに低い社宅家賃を設定してしまうと、社宅家賃と賃貸料相当額の差額に対して課税処理が必要になり、借り上げ社宅制度を運用する負担が増えてしまいます。
負担増を避けようとすると、一定額以上の社宅家賃を徴収する必要があります。
では、一定額以上とはどの程度なのでしょうか?
改めて、この賃貸料相当額の算出式を見て見ると、実際の家賃額はどこにも登場しません。
仮に月額賃料8万円の物件を借り上げ社宅として企業が借りたとしても、賃貸料相当額の算出式に8万円という金額は使用されません。
賃貸料相当額の算出には実際の家賃額は関係なく、その物件の固定資産税評価額をベースに算出されます。
固定資産税評価額の説明はここでは割愛しますが、この算出式を利用して賃貸料相当額を算出すると、ほとんどのケースで実際の家賃より低い賃貸料相当額が算出されます。
実際の家賃の10%程度の金額が算出されることも珍しくありません。
また、この賃貸料相当額を算出するために、新規に契約する都度、固定資産税評価額を調査していくことは非常に大きな負担を伴うため、現実的ではありません。
社宅家賃を実際の家賃の20%~35%程度で設定される企業が多いのは、この点を考慮してという要因もひとつあるでしょう。
(注:20%以上の社宅家賃を徴収していれば必ず賃貸料相当額の50%以上になるということではありません)
3.さいごに
借り上げ社宅制度における社宅家賃は、設定水準によっては課税処理が必要となるケースがありますので、この点を意識し社宅家賃の設定を行うべきです。
また、最適な社宅家賃の設定は企業ごとに異なります。
例えば、全国に事業所がある企業の場合、全国どこに赴任しても同じ水準の社宅家賃設定にする企業もあれば、事業所所在地の賃料相場に応じて、社宅家賃を設定する企業もあります。
企業それぞれの考え方があるはずです。
他社の社宅家賃設定をそのまま自社の社宅家賃設定として採用しても最適な設定にはなり得ません。
自社の社宅制度の目的や社宅家賃についての考え方を整理したうえで、最適な社宅家賃設定を模索しましょう。