社宅制度は社員にとっては恩恵の大きい制度ですが、反面、制度を運用していくために大きな業務負担が伴います。
社宅の種類も色々ありますが、特に市中の物件を会社が借り上げ、社員へ貸与する「借り上げ社宅」は、一件ずつ内容が異なる賃貸借契約書の締結が必要であり、契約書内容の確認だけでも大変です。
その他にも新規契約時の諸費用の振込み、月次賃料支払い、更新手続き、解約時の原状回復費協議、社員や不動産会社とのやりとり…等々、運用には大変な手間がかかります。
そうした社宅制度運用に伴って発生する業務を引き受けてくれるのが「社宅管理代行サービス」です。
「社宅代行」、「社宅アウトソーシング」などとも呼ばれるサービスです。
そうしたサービスを提供する会社は「社宅代行会社」、「社宅管理アウトソーサー」と呼ばれています。
今回は社宅の中でも事務業務の負荷が最も高い「借り上げ社宅」を例に、「社宅管理代行サービス」について紹介していきます(以下の文章では、サービス名称を「社宅管理代行サービス」、サービス提供を行う会社を「社宅代行会社」としています)。
目次
1.「借り上げ社宅制度」運用に伴い必要となる業務は?
最初に、「借り上げ社宅制度」ではどのような業務が必要となるかについて簡単に触れたいと思います。
「借り上げ社宅制度」は市中の賃貸物件を会社が借りて、社員へ貸与する制度です。
そのため、入居する際や退去する際には不動産会社との諸手続きが必要となりますし、外部不動産会社への入居時契約金や月次賃料の支払い業務が必要となります。
また、入居時、退去時は不動産会社とのやりとりだけではなく、入居・退去する社員とのやりとりも必要です。
簡単に主なものを挙げると下記のような業務が必要となります。
- 新規契約手続き
- 新規契約時の諸費用の支払い
- 入居物件の月次賃料支払い
- 入居中トラブル・問い合わせの対応
- 更新手続き
- 解約時の敷金精算対応
- 支払調書の作成
- 家主マイナンバーの収集
- 契約物件情報の管理
- 社員から徴収する社宅家賃などの計算
主な業務だけでもこれだけの業務があり、細かい業務を含めるともっとたくさんあります。
全ての手続きが順調に進むわけではなく、中々進捗しないような手続きが発生するうえ、同時並行で多くの不動産会社・社員とのやりとりを進めていかなければなりません。
2.社宅管理代行サービスってどんなサービス?
それでは、次に社宅代行会社に業務を委託するとどのようなサービスが受けられるのかについて書いていきます。
先程挙げた借り上げ社宅制度の運用に伴い必要となる業務については、多くの社宅代行会社では標準的なメニューとして委託できる業務です 。
しかし、社員から徴収する社宅家賃などの計算やデータ作成などは対応できない社宅代行会社もありますのでサービス導入を検討する際は確認が必要です。
ここでは、どの社宅代行会社であっても委託することが可能な業務を挙げていきたいと思います。
ここで挙げたNo.1~11の業務については、ほとんどの社宅代行会社が提供を行っているサービスと言えるでしょう。
もちろん、ここで挙げた以外にも、社員から徴収する社宅家賃や各種費用の仕訳データなどの作成、転勤に伴う各種手当の申請承認対応…等々、委託できる業務は他にもたくさんあります。
企業ニーズも年々拡大しているため、社宅代行会社も各社対応領域を拡大し企業ニーズに応えようとしています。
そうした対応領域の広さについても社宅代行会社間で差が生じる点ですが、上記に挙げたNo.1~11の業務であっても社宅代行会社によってサービス内容は異なっていますので注意が必要です。
社宅代行会社に業務を委託したものの、思うような成果が得られていないという話は少なくありません。
社宅代行サービスの導入を検討する際は、各社のサービスについて説明を受けられると思いますが、その際に確認しておくべきポイントをご紹介します。
3.社宅管理代行サービス導入検討時に確認すべきこと4点
先程挙げた[社宅代行会社が行う業務内容]は、資料や文字にするとどこの社宅代行会社のサービスもあまり変わらないように見えます。
しかし、実際に提供されるサービスは社宅代行会社間で異なります。
サービス導入の検討をする際に確認すべき点はたくさんありますが、ここでは、失敗しないために、最低でも確認しておくべきポイントを4点紹介していきます。
ポイント① 物件情報紹介の仕組み
社員の満足度を左右する重要なサービスメニューです。
社宅代行会社がどのような仕組みで物件情報を提供するのかについてよく確認を行うようにしましょう。
単にシステム上から物件情報を検索できるだけのサービスであれば、全国の物件を閲覧できる物件検索サイトがありますので、あまり価値があるとは言えません。
物件情報紹介の仕組みを確認するだけでなく以下の視点を持つべきです。
- 入居する社員に対してどのようなサポートを行うのか?
- 良質な物件情報が提供される仕組みとなっているか?
- 提供される物件情報に偏りが生じることはないか?
- 極端に物件情報提供力が低い地域などがないか?
物件情報紹介サービスは社員の不満要因となりやすい部分です。
上記の視点を持ち確認を行ったうえで、自社に最適なサービスを選択しましょう。
ポイント② 解約精算業務
借り上げ社宅として契約している物件を退去する際に発生する業務です。
退去する際は、借主の故意・過失、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧するために、貸主・管理会社から「原状回復費」が請求されます。原状回復費が適正であるかを確認し、最終的に借主として負担する金額を確定していきます。
借り上げ社宅制度の場合、原状回復費の確定までに大きく2つのステップがあります。
STEP1. 請求される原状回復費は借主負担として適性な金額であるか?
STEP2. 借主負担となった費用は企業負担なのか、入居社員負担なのか?
STEP2については、故意・過失による発生費用を入居社員負担とする場合、入居社員本人に負担額について了承を取得する必要があります。
しかし、社宅代行会社によっては、対応範囲が借主負担額の確定(STEP1)までとなり、入居社員の負担額に関する了承の取り付けは対応しない会社もあります。
これらの業務は社宅担当者にとって、大変ストレスになりやすい業務です。
せっかく外部に任せるのに、大変な業務が残存しては意味がありません。必ず下記の確認を行うようにしましょう。
- 退去時原状回復費における、入居社員の負担額特定、本人負担額の了承取り付けまで対応してもらえるか?
ポイント③ 契約物件データ管理
契約した借り上げ社宅の情報(家賃・住所・入居社員など)は社宅代行会社が登録します。
この登録したデータに誤りがあると、社内で行う社宅家賃(社員使用料)の計算や、経費仕訳などに大きな影響が生じます。
社宅代行会社は賃貸借契約書から必要な情報を抽出し、システムに登録しています。
現在のところ、人間が行う作業となっているため、誤入力が発生する可能性はゼロではありません。
社宅代行会社のスタッフが入力しているならば、一定の割合で入力ミスが発生します。
入力ミスが発生することを前提に、社宅代行会社がデータの誤入力をどのように防ごうとしているかについては確認が必要です。
ポイント④ 社宅管理のためのシステム
社宅管理を社宅代行会社へ委託すると、社宅運用管理のためのシステムが提供されます。
主な機能は、申請・承認を行うワークフロー機能、契約情報を管理する情報管理機能の2つです。
効率的な運用を実現するためには、 非常に重要となります。
提供されるシステムが、企業の必要要件を満たせていないため、利用する社員や社宅担当者が不便な思いをしているケースは多くあります。
たとえば、Web上で申請・承認を行うワークフロー機能においては、「多段階の承認プロセス設定ができない」や、契約情報管理機能において、「必要なデータのみの抽出ができない」など、企業が当然にできると思っていたことができないというご相談を多くいただきます。
また、単純に内容がわかりづらく利用しづらいという不満も多くお聞きします。
失敗しないためにも、必要な機能を整理し、その機能が満たされているかどうかを必ず確認しましょう。
- 自社が必要とする機能が備わっているか?
- マニュアルなどを見ずとも操作できる簡易性があるか?
4.さいごに
ここまで社宅代行サービスについて書かせていただきました。
今後、サービス導入を検討される際に参考にしていただければ幸いです。
社宅管理代行サービスは、社宅制度を運用するうえで発生する煩雑な業務から開放してくれるサービスです。
まずは、社宅管理代行サービスがどのようなサービスなのかを理解したうえで検討に入るようにしましょう。
また、自社にとって最適な社宅管理代行サービスを選ぶためには、サービス導入により実現したいことや、そのために必要な要件を整理することも重要です。
こういった検討前の準備なども難しい場合は、このあたりから社宅代行会社に相談してみるのもよいと思います。